一時期派遣労働に対する批判の声があちこちで上がりました。「搾取されている」「不公平」など。「派遣切り」なんて言葉が流行したのも記憶に新しいところです。企業の側としては人手が足りない時に都合よく補充することができるうえに、必要なくなったら契約を切れる。しかも正社員なみの給料や福利厚生を用意する必要もない。かなり理想的な形なのですが、働く側としてはいつ職を失うかわからない、正社員となんら変わらない仕事をしているのに待遇面で大きな差がつけられているといった問題にさらされてしまうことになります。わたしも以前派遣で働いていたことがあるのですが、不安定な環境に厳しさを感じたものです。
そんな批判の声もある派遣ですが、現在でも雇用形態の一種として広く活用されています。雇う企業の側だけでなく雇われる労働者の側にもそれなりにメリットがあるのが大きな理由でしょう。失職中で収入を得る手段がない人にとっては背に腹は代えられないという面もありますし、派遣でいろいろな職場で働きながら経験を積んで人脈を広げていき、最終的に正社員を目指すというプラスの面もあります。ただその一方で、派遣そのもののシステムにも変化が見られています。その代表格が特定派遣社員です。
この特定派遣社員とは「正社員を派遣する」ことです。一般的な派遣では派遣会社に登録した人がその会社が抱えている求人の中から自分で探したり、斡旋を受けたりしながら雇用契約を結んで働くことになります。それに対して特定派遣社員とは、派遣会社と正社員としての雇用契約を結んだうえで派遣先で仕事をする仕組みとなっているのです。
ですから、派遣先の企業との間で雇用契約が切れても派遣会社の正社員なので雇用契約が失われるわけではなく、すぐに次の仕事を見つけられ、収入の手段も確保できることになります。さらに派遣会社が用意している福利厚生を利用できるのもメリットのひとつでしょう。
ただデメリットというか注意点もあります。基本的には派遣と働く環境は変わりませんから、あっちこっちと勤務先を変えながら働き続けることになります。そのため継続して働きながらスキルやキャリアを獲得していくのが難しいのです。当然その分昇給・昇進も期待できません。また、それぞれの派遣先でその会社の正社員と同じ仕事をしているのに、給料はずっと低いという根本的な問題は解決されていないことも多いのです。
このように正社員の肩書きこそあるものの、実態は通常の派遣と変わらない特定派遣社員のことを「名ばかり社員」と呼ぶこともあります。これから転職活動を行おうと思っている人は注意したほうがよいでしょう。